相対評価と絶対評価の違いを徹底解説|人事評価の使い分けと実務ポイント 

目次

相対評価とは?評価の考え方と人事で使われる仕組み

相対評価とは、評価対象者を同じ集団内で比較し、相対的な位置づけで評価する方法です。人事評価の場面では、評価分布をあらかじめ設定し、社員の成績や行動を順位に応じて配分します。評価のバランスを保ちやすい一方、評価者の説明責任や納得感が課題となることがあります。

相対評価の定義

相対評価は、同じ組織や集団に属する複数の対象を比較し、その中での順位や優劣によって評価を行う仕組みです。企業の評価制度では、S・A・B・C・Dなどのランクを設定し、あらかじめ定めた比率で評価結果を配分します。例えば「A評価は全体の20%」「C評価は30%」のように、人数の枠を最初から決める方法が一般的です。この枠に沿って、相対的に評価の高い順から評価を割り振っていきます。評価の基準が「他者との比較」に依存するため、評価対象者がどれだけ成長したかよりも、集団のレベルによって評価結果が変わりやすい特徴があります。

評価ランクと分布の決め方

企業で相対評価を導入する際は、評価分布(いわゆる強制分布)を設計します。評価分布とは、各評価ランクに社員を何%配分するかを定めたものです。一般的な設計例は次のとおりです。

  • S評価:5%
  • A評価:20%
  • B評価:50%
  • C評価:20%
  • D評価:5%

この形式を採用すると、部門ごとの評価のばらつきを抑える効果があります。一方で、組織全体のレベルが高い部門でも、評価分布に当てはめるために相対的に低い評価がつく場合があります。評価者の主観を排除し、標準化を促せますが、評価面談での説明責任は重くなるため、運用上の工夫が必要です。

学校での活用例

学校教育の場面でも相対評価は使用されます。代表的な例は偏差値や順位です。偏差値は集団の平均点と分散をもとに個人の位置付けを表す指標で、集団内での相対的な成績が明確になります。教育現場では「学力の比較」を目的として用いられるため、相対評価の基本的な概念を理解しやすい例として適しています。本記事の主軸は人事評価ですが、相対評価の本質を理解するための参考例として紹介します。

企業での活用例

企業の人事評価では、期初に設定した行動評価・成果評価に基づき社員ごとに点数をつけたうえで、同じ部門内の社員を比較して評価ランクを決定します。営業部門で顕著ですが、成果が可視化されやすい職種では相対評価が適用されやすく、部門間で評価の分布を揃える目的にも適しています。また、多くの企業が「評価会議」を行い、部門ごとの評価が偏らないよう部門長や人事が調整します。評価の透明性を確保するには、評価プロセスの事前共有と評価者研修が不可欠です

相対評価が適するケース

相対評価は以下のようなケースで適しています。

  • 人数が多い部門で評価のばらつきを抑えたい場合
  • 成果が数値で比較しやすい職種(営業、販売、コールセンター等)
  • 組織全体のレベル感を揃えたい場合
  • 昇格枠や報酬配分が限定されている場合

一方で、クリエイティブ職や専門性の高い職種では業務内容が多様で比較が難しく、相対評価が必ずしも機能しにくいケースもあります。評価の序列化はメリットとデメリットの両面を持つため、組織の目的と性質に応じて慎重に使い分ける必要があります。

絶対評価とは?基準・プロセス・設計ポイント

絶対評価は、あらかじめ定めた目標や基準に対して、どの程度達成したかを評価する方法です。評価対象者が誰と比較されるかではなく、設定した基準をどれだけ満たしたかに基づき、個々の成果・行動を評価します。人事評価制度では、MBO(目標管理)、コンピテンシー評価、職務評価などの手法と組み合わせて運用されることが多く、社員の成長促進や納得感向上に寄与します。

絶対評価の定義

絶対評価は、基準準拠評価の評価方法であり、評価対象者が目標や評価基準にどれだけ到達したかを測定します。相対評価が「集団の中での位置」を基準とするのに対し、絶対評価は「達成度」を軸に評価します。

例えば、期初に設定したKPIの達成率や、行動基準に沿った仕事ぶりなどを軸に判定します。評価は他者の成績に影響されず、基準を満たした者は全員が高い評価となる場合もあります。個々の成長や努力が評価に反映されやすいため、近年の企業では絶対評価の導入が広がっています。

評価基準(MBO・コンピテンシー)の作り方

絶対評価を運用する際には、評価基準の設計がポイントです。代表的な基準は次のようになります。

  •  MBO(目標による管理)

社員自身が期初に目標を設定し、その達成度を期末に評価します。数値目標だけでなく、業務プロセスや改善活動を含む行動目標も設定できます。評価の透明性と主体性を高めるメリットがあります。

  • コンピテンシー評価

成果につながる行動特性(コンピテンシー)を基準に評価する方法です。「主体性」「問題解決力」「顧客志向」など、成功パターンをもとに行動モデルを定義します。明確な行動基準を設けることで、評価の公平性と一貫性が高まりやすくなります。

  •  職務評価

職務に必要なスキル・責任・難易度を分析し、職務グレードに応じて評価を行う手法です。役割や権限が明確な組織では、等級制度との相性が良い方法です。

いずれの手法でも、評価基準の曖昧さは納得感を損なうため、職種ごとに「具体的で測定可能な基準」を設定することが不可欠です。

学校での活用例

絶対評価は教育現場でも採用されています。代表的なのは「合格基準を満たせば全員合格」という方式です。たとえば資格試験のように、他者との順位ではなく、決められた点数に到達したかどうかで合否が決まります。この例は、人事制度における絶対評価の基本概念を理解する際にも有用です。本記事では教育分野を深掘りしませんが、絶対評価の「基準達成型」という特徴が最も分かりやすく表れる例として簡単に触れておきます。

企業での活用例

企業では、絶対評価は以下の場面で用いられます。

  • 目標管理制度(MBO)による成果評価
  • 行動基準に則ったコンピテンシー評価
  • 職務等級制度とセットになった役割評価
  • プロジェクトの成果物・達成基準の確認

絶対評価の運用は、評価の透明性を高め、社員が「何を達成すれば評価されるのか」を理解しやすくする効果があります。一方で、評価基準が曖昧であったり、職種やプロジェクトごとに基準設定が難しかったりすることもあるため、評価設計の段階で詳細な基準作りが必要です。

絶対評価が適するケース

絶対評価は次のような場面で有効です。

  • 各社員の成長を重視したい
  • 仕事の難易度が個別に異なる職種が多い
  • 自律型の働き方を促進したい
  • 人材開発と評価制度を連動させたい
  • 評価の納得感を重視したい

特に、ジョブ型組織やプロフェッショナル職が中心の企業では、絶対評価が最適となるケースが増えています。他者比較ではなく「個人の成果・行動の積み上げ」を重視する文化に適しているためです。

h2 相対評価と絶対評価の違い

相対評価と絶対評価は、人事評価制度の中心を構成する評価手法ですが、両者は基準・目的・運用方法が大きく異なります。本章では、違いを一覧で把握できる比較表を提示し、評価制度設計において重要となる判断ポイントを具体的に見ていきましょう。違いを理解することで、自社の評価制度がどちらを優先すべきか、あるいは両者を併用すべきかの判断が容易になります。

一目でわかる相対評価と絶対評価の違い

項目相対評価絶対評価
基準集団内での順位・相対的な位置付けあらかじめ設定した基準・目標の達成度
評価基軸他者との比較個人の成果・行動・成長
評価結果の幅分布に合わせて調整される達成基準を満たせば全員A評価もあり得る
属人性低い(標準化しやすい)高い(基準設定の質に依存)
メリットバランスが取りやすい/昇格枠に合わせやすい納得感が高い/成長促進につながる
デメリット説明責任が重い/比較できない職種に不向き設計が難しい/評価者の判断力が問われる
向いている組織大規模組織、成果の比較が容易な職種専門職が多い組織、自律型の働き方を重視する企業

この比較表から、相対評価は「全体のバランス管理」に適しており、絶対評価は「個々の成果・成長管理」に強みがあることがわかります。

違いが生じる背景

相対評価は、組織の人件費管理や昇格枠の最適配分といった「構造的な制約」に基づいて設計された評価手法です。評価結果を分布に合わせることで、部署間の評価差を抑え、全社として統一された評価を行える利点があります。

一方で絶対評価は、職務の多様化や自律的な働き方の拡大、人材育成の重視などの流れの中で普及した手法です。特に、プロフェッショナル職やクリエイティブ職の増加により「同じ基準で他者と比較できない業務」が増えたことで、個々の達成度を測る仕組みが求められています。

さらに、成果主義から行動評価を重視する傾向への変化により、行動プロセスを適切に評価できる絶対評価の必要性が高まりました。これらの背景が、両者の違いを一層際立たせています。

誤解されやすいポイント

相対評価と絶対評価はしばしば混同され、誤った理解のまま運用されることがあります。特に注意が必要なポイントは次のとおりです。

  • 「絶対評価=甘い評価」ではない

基準が曖昧なまま運用されると評価が甘くなることはありますが、適切に基準を設定すれば厳格な評価も可能です。

  • 「相対評価=公平」でもない

標準化という点では公平性がありますが、比較が難しい職種や個別性の高い業務ではむしろ不公平を生じるケースがあります。

  • どちらか一方だけが正解ではない

評価制度は企業規模・業務内容・組織文化によって適切なバランスが異なります。相対評価と絶対評価を組み合わせるハイブリッド型が最も機能するケースも多いです。

これらの誤解があると、制度の見直しや改善が進まず、評価制度が形骸化してしまうことがあります。違いを正しく理解することが制度運用の第一歩となります。

相対評価・絶対評価のメリットとデメリット

相対評価と絶対評価は、それぞれ目的と特徴が異なるため、評価制度として導入する際には両者のメリット・デメリットを理解しておくことが必要です。本章では、制度運用でよく生じる課題や誤解を踏まえ、相対評価と絶対評価が持つ利点とリスクを解説します。これにより、自社の組織文化や業務特性に合った評価方法を選択するための判断材料が得られます。

相対評価のメリット・デメリット

相対評価のメリットは、組織全体で評価のバランスを取りやすい点にあります。評価分布を事前に設定することで、部門ごとの評価のばらつきを抑える効果が期待できます。また、社員間に適度な緊張感が生まれ、成果を上げようとする意識向上につながる場合があります。評価者自身も、基準に沿って順位付けを行うため、比較的運用しやすいという利点があります。

一方、デメリットとしては、比較が難しい職種では評価基準が曖昧になりやすく、本人の成長や努力が十分に反映されない可能性があります。評価分布の枠に合わせるため、本来高い評価を与えるべき社員が相対的に評価を下げられることも発生します。評価者には説明責任が伴い、本人から納得を得にくい場合があるため、評価面談で明確に説明できることがポイントです。

絶対評価のメリット・デメリット

絶対評価のメリットは、個人の成果や行動が直接評価に反映されるため、納得感を得やすい点にあります。評価基準を明確に設定することで、社員が「何を達成すれば評価されるのか」を理解でき、目標達成に向けた主体的な行動を促しやすくなります。また、職種ごとに異なる特性を考慮して評価基準を設計できるため、専門性の高い職務や創造的な業務に向いています。

一方で、絶対評価の最大の課題は、評価基準の設計が難しいことです。基準の曖昧さや評価者ごとの差異がそのまま評価結果に反映されてしまい、評価者の能力に依存しやすいというリスクがあります。また、達成基準が高すぎると現実的ではなく、低すぎると評価の甘さにつながるなど、基準設定の精度が評価制度全体の品質を左右します。評価者研修を実施しないまま絶対評価を導入すると、制度が形骸化する可能性があります。

欠点を補う方法

相対評価・絶対評価のどちらにも課題はありますが、適切な制度運用により欠点を補うことができます。まず、評価者研修の実施は必須です。評価者が評価基準を正しく理解し、行動事例に基づいて評価できるようにすることで、評価のブレを減らせます。また、職種ごとに「具体的な行動レベル」を提示することで、基準の解釈違いを防ぐことができます。

さらに、評価期間中に定期的なフィードバックを実施することで、評価対象者が目標から逸脱するリスクを低減できます。評価結果に対する納得感は、評価そのものよりも「プロセスの透明性」と「コミュニケーションの質」に左右されることが多いため、制度設計とあわせて運用面の対策も必須です。これらの施策は、相対評価・絶対評価のどちらを採用する場合でも有効です。

相対評価・絶対評価が給与・昇給・昇格に与える影響とは?

相対評価と絶対評価は、評価結果そのものだけでなく、給与、昇給、昇格といった処遇の決定にも大きな影響を与えます。本章では、それぞれの評価方式が処遇にどのように結びつくのか、制度運用で注意すべきポイントと併せて解説します。評価制度は処遇制度と連動させることで初めて機能するため、両者の関係を理解することが求められます。

給与・昇給への反映方法

【相対評価】

評価分布をもとに昇給額が決まるケースが一般的です。たとえばA評価に該当した社員は昇給率が高く、B評価は標準、C評価は昇給なしに近い、というように分布に沿って処遇が配分されます。評価のブレが少なく、全体の人件費管理がしやすい点がメリットです。

一方で、集団全体のレベルが高い部署でも「枠」によって昇給が抑えられる場合があるため、本人の納得感を得にくいという課題があります。

【絶対評価】

達成基準をクリアした社員は全員が高評価になるため、昇給額が伸びやすい傾向があります。ただし、基準が甘いと人件費が予想以上に増加するリスクもあり、評価基準の設定と見直しがポイントです。高評価となる基準を明確にし、組織の財務状況と整合性を保つ必要があります。

昇格基準への影響

【相対評価】

一定期間A評価を獲得することが昇格条件とされることが多く、評価分布に応じて昇格人数がコントロールされます。組織内のポストや役割が限られている場合、この方式が適しています。

【絶対評価】

基準を満たせば一定のスピードで昇格できるため、若手や専門職の早期抜擢に向いています。ただし、評価者による基準の解釈に差が生じやすいため、行動基準や役割期待を明確に定義し、昇格審査での客観性を確保することがポイントです。

処遇制度と評価制度を連動させる際の注意点

処遇制度と評価制度は独立したものではなく、連動して初めて機能します。下記が代表的な注意すべきポイントです。

  • 基準を職種別・グレード別に明確化する

絶対評価は特に基準の曖昧さが処遇不満につながるため、基準の文書化は不可欠な要素です。

  • 評価プロセスを透明化する

昇給・昇格の流れが不透明だと納得感が損なわれます。評価会議の役割や決定プロセスを明示することが前提となります。

  • 評価者研修を定期的に実施する

昇給・昇格の判断は評価者の判断力に依存するため、評価者スキルの平準化が必要です。

  • 評価と処遇を完全に一致させないケースもある

市場価値や専門性の高さ、重要なプロジェクトへの貢献など、評価項目に反映しにくい成果がある場合は、例外的な処遇が発生します。

相対評価・絶対評価のどちらを用いる場合でも、評価制度と処遇制度の「整合性」と「透明性」がポイントです。これが担保されることで、評価への納得感が高まり、制度全体が安定して運用できます。

企業で評価制度を運用する際のポイント

相対評価・絶対評価のどちらを採用する場合でも、大切なのは評価制度が適切に機能するためには「運用の質」です。本章では、制度導入の流れ、組織規模に応じた使い分け、評価の納得感を高めるための方法など、評価制度を運用するうえで欠かせない実務ポイントを紹介します。評価制度は設計より運用で失敗する企業が多いため、実務的な視点から解説します。

評価制度導入の流れ

評価制度を導入する際には、次のステップに沿って進めることで制度が機能しやすくなります。

  • 評価方針の明確化

組織として何を評価したいのか(成果・行動・能力・役割など)を明確にし、経営戦略との整合性を確認します。

  • 評価基準と評価項目の設計

職種や役割に応じた具体的な評価基準を設定します。達成基準、行動レベル、数値目標などを明確化し、誰が見ても同じ判断ができる状態を目指します。

  • 評価プロセスの設計

いつ目標設定を行うのか、評価面談をどのタイミングで実施するのか、評価会議の有無など運用ルールを決めます。ここが不明瞭だと制度が形骸化します。

  • 評価者研修の実施

評価基準の理解、面談スキル、行動の見極め方などを習得する場が不可欠です。研修が不十分だと制度が適切に運用されません。

  • フィードバック面談の実施

評価結果に加え、次期の改善点や強みを具体的に伝えます。評価の納得感は、この対話の質に大きく左右されます。

  • 制度の振り返りと改善

制度は導入して終わりではありません。運用後に課題を洗い出し、翌期に改善することで精度が高まります。

評価制度は「設計」と「運用」の両輪で成立するため、この一連の流れを継続することが基本になります。

組織規模別:使い分けのコツ

相対評価と絶対評価は、組織規模によって向き不向きがあります。

【小規模組織の場合】

  • 職種や役割が多様で比較が難しい
  • 個々の成果が組織に大きく影響する

→絶対評価が適しやすい

特にスタートアップは成長フェーズが早く、相対評価では評価の公平性が担保しにくい状況が生じます。

【 中規模組織の場合】

  • 職種軸で比較可能な場合は相対評価が機能する
  • 達成基準が明確なプロジェクトが混在する

→相対評価と絶対評価の併用が現実的

【大規模組織の場合】

  • 人数が多く、評価者間のばらつきが出やすいため相対評価が標準化に貢献
  • 昇格枠など人件費管理が必要

→相対評価がメインになるケースが多い

ただし、いずれの規模であっても「行動基準は絶対評価」「成果は相対評価」というハイブリッド型の導入が増えています。

評価の納得感を高める方法

評価制度の悩みとして最も多いのが、「評価に納得できない」という声です。納得感を高めるためのポイントは次のとおりです。

  • 目標設定の質を高める

曖昧な目標は納得感を下げる最大の要因です。「具体的・測定可能・達成可能・期限付き」であることが前提です。

  • 評価の根拠を明確にする

行動事実や成果データに基づき、評価者が説明できる状態を作る必要があります。

  • フィードバック面談で対話の時間を確保する

評価結果だけでなく、改善ポイントや期待する役割を共有することで、評価への理解が深まります。

  • 評価者研修の定期実施

評価の認知バイアス、行動の見極め方、質問技法などを習得することで、評価のブレが軽減されます。

  • プロセスの透明性を確保する

評価の流れ、基準、評価会議のルールなどを公開することで、制度への信頼度が高まります。

評価の納得感は「評価の厳しさ」よりも「評価プロセスの透明性」と「評価者との対話量」に左右されることが多いため、運用に重点を置く必要があります。

相対評価・絶対評価をどう使い分けるべきか?

相対評価と絶対評価は、どちらか一方を選べば良いというものではありません。組織の規模や職種の特徴、評価制度の目的によって最適な組み合わせは異なります。本章では、両者をどのように使い分けるべきか、併用する際のポイント、評価基準の透明性を確保するための注意点を紹介します。

両者を併用するハイブリッド型

多くの企業では、相対評価と絶対評価を組み合わせたハイブリッド型を採用しています。以下は代表的な併用パターンです。

  • 成果指標は相対評価、行動指標は絶対評価

数値比較が容易な成果は相対評価を用い、プロセスや行動特性は絶対評価で判断する方式です。

  • 期初目標は絶対評価、最終ランクは相対評価

期初に設定した目標達成度を絶対評価で判断し、最終的な昇給・ボーナスのランク分布は相対評価により組織全体のバランスを調整します。

  • 職種別に評価方法を分ける

営業職は相対評価、専門職は絶対評価というように、業務特性に応じて評価方式を切り分ける企業も増えています。

このように、評価制度は単一方式ではなく、複数の手法を組み合わせることでより運用の柔軟性が高まり、職種ごとの特性にも対応しやすくなります。

職種・部署での使い分け例

評価方式の選択は、職種や部署の業務特性に大きく左右されます。以下に具体例を挙げます。

  • 営業職

成果が数値で把握しやすいため、相対評価が機能しやすい。この一方で、営業プロセスの質は絶対評価を併用することで評価の偏りを防ぎます。

  • 企画・マーケティング職

創造的な業務が多く他者との比較が難しいため、絶対評価を中心とした基準が適しています。

  • エンジニア・専門職

成果が短期的に見えづらいことが多く、達成レベルに応じた絶対評価が効果的です。スキル、品質、プロセスなどを細分化した基準を設定する必要があります。

  • 管理部門

業務の幅が広く比較が難しいため、絶対評価を中心にするケースが一般的です。

職種別の適性を理解することで、不必要な比較や不公平感を減らし、評価制度の納得感を向上できます。

評価基準の透明化とコミュニケーションの重要性

使い分けを成功させるためには、評価基準と評価プロセスの透明化が不可欠です。

  • 評価基準を文書化する

行動レベル・期待役割・評価項目などを明文化し、部門ごとにばらつきが出ないよう統一します。

  • 評価プロセスを事前に共有する

目標設定、評価期間、面談の流れ、評価会議の位置づけなどを社員に開示し、評価への不安を減らします。

  • 面談での丁寧な対話

評価制度は「対話」が前提となる仕組みです。特に絶対評価では基準の解釈に差が生まれやすいため、評価者と対象者の認識を揃えることが前提になります。

透明性の高い運用は、相対評価・絶対評価どちらの方式であっても、評価への納得感を大きく向上させ、組織への信頼形成にもつながります。

まとめ|相対評価と絶対評価の違いを正しく理解して制度運用に活かす

相対評価と絶対評価は、人事評価制度の目的や組織特性に応じて使い分けるべき手法です。相対評価は組織全体のバランス調整に向いており、絶対評価は個々の成果や行動を正確に捉えるのに適しています。いずれか一方だけで制度を成立させるのではなく、目的に合わせて併用することで評価の公平性と納得感を高められます。

評価制度を機能させるために重要なのは、基準の明確化と運用の質です。評価者研修、目標設定の精度向上、フィードバックの徹底など、運用面の取り組みが制度の信頼性を支えます。組織の状況に合わせて制度を継続的に改善し、相対評価と絶対評価の特性を活かすことで、より透明性の高い評価制度が構築できます。

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