製造業のKPIとは?工場現場で使える具体例と設定ポイントを徹底解説

目次

製造業でKPIが重要視される理由

製造業では、生産性・品質・コスト・納期といった“競争力の源泉”を数値で管理することが不可欠です。KPIを設定することで、現場の状態を正確に把握し、どこにムダや課題があるのかを客観的に判断できます。また、改善活動の成果を測定しながらPDCAを継続できるため、組織全体で同じ方向に向かって効率的に改善を進められる点が大きなメリットです。

以下では、KPIが特に重要となる4つの理由を詳しく解説します。

生産性向上

生産性向上は製造業における最重要テーマの一つであり、KPIはその土台となる「現状の見える化」に大きく貢献します。製造現場では、作業者ごとの工数、設備の稼働率、段取り時間、停止要因など、改善すべきポイントが多岐にわたります。KPIを設定することで、それらの数値が明確になり、生産ラインのどこにボトルネックがあるのか可視化できます。

結果として、ムダな作業の削減や工程の最適化が進み、全体の生産効率が向上します。また、数値化することで改善活動の成果が分かりやすく、現場のモチベーション向上にもつながる点が大きなメリットです。

品質向上

製造業において品質は企業の信頼と競争力を左右する要素であり、KPIを通じた数値管理が欠かせません。不良率や直行率、再加工率といった指標を設定することで、どの工程で不良が多発しているかを特定し、原因分析を行いやすくなります。

また、工程能力指数(Cp、Cpk)のような統計的指標を取り入れると、工程のばらつきや管理状態を継続的に把握でき、標準化の促進につながります。KPI管理によって不良の早期発見・予防が可能となり、品質トラブルの減少、顧客満足度の向上、最終的にはブランド価値の強化にも寄与します。

原価管理

製造業では、材料費・労務費・製造間接費などコスト要素が多く、原価の把握と改善が経営に直結します。KPIを活用することで、どの工程・設備・作業にコストがかかっているのか、またどの部分にムダが潜んでいるのかが可視化されます。

例えば、歩留まり率・稼働率・段取り時間・余剰在庫などを数値化すると、損失の原因を迅速に特定でき、改善策が立てやすくなります。さらに、原価の変化を定期的にモニタリングすることで、予算管理の精度向上や利益率改善にもつながります。

KPIによる原価管理は、競争力維持のための経営基盤を強化する重要なアプローチといえます。

納期遵守

製造業における納期遵守は顧客満足度や信頼に直結する重要な指標です。KPIを設定することで、生産リードタイム、仕掛品量、設備稼働率、計画遵守率などを定量的に把握でき、納期遅延の原因特定が容易になります。

また、工程ごとの遅れや負荷の偏りを見える化し、計画精度を高めることで、無理のない生産スケジュールを組むことが可能になります。結果として、現場の混乱や突発対応が減り、安定した生産体制の確立につながります。

KPIを活用した納期管理は、顧客からの信頼獲得だけでなく、組織全体の生産性向上にも大きく寄与する重要な仕組みです。

製造業におけるKPIの種類

製造業では、生産性・品質・設備・在庫・安全といった多面的な視点でKPIを設定する必要があります。各指標を適切に管理することで、現場課題の見える化だけでなく、経営全体の最適化にもつながります。

ここでは生産現場で特に利用される5つのKPIカテゴリを取り上げ、それぞれの役割と改善に役立つ理由をわかりやすく解説します。

生産性に関するKPI

生産性に関するKPIは、製造現場がどれだけ効率的にモノづくりを行えているかを示す重要な指標です。

代表的なものとして

  • 「労働生産性」
  • 「タクトタイム」
  • 「生産量」
  • 「段取り時間」などが挙げられます。

労働生産性を追うことで、作業者1人あたりの価値創出量を把握でき、作業標準化や人員配置最適化に役立ちます。また、タクトタイムは顧客需要に合わせて生産リズムを整えるための基礎指標で、生産ライン全体のボトルネック把握に有効です。これらの生産性KPIを管理することで、ムダの削減、ラインバランスの改善、生産性向上につながり、現場全体のパフォーマンスを大きく底上げします。

品質に関するKPI

品質に関するKPIは、製品の均質性や工程の安定性を評価するための指標で、企業の信頼性や顧客満足に直結します。

代表的なものとして

  • 「不良率」
  • 「直行率」
  • 「再加工率」
  • 「工程能力指数(Cp、Cpk)」など

こういった項目は多くの製造現場で活用されています。不良率は品質トラブルの発生頻度を示し、改善すべき工程を明確にします。直行率は、製品が手直しなしで最終工程まで流れた割合を示し、工程の成熟度をチェックするポイントとして重要です。

また、工程能力指数を活用することで、工程のばらつきを定量的に把握でき、標準化の実効性を判断できます。品質KPIの適切な活用は、クレーム削減、品質安定化、ブランド価値向上に大きく貢献します。

設備に関するKPI

設備に関するKPIは、生産ラインの稼働状況や設備トラブルの影響を把握するための指標です。

代表的なものとして

  • 「OEE(総合設備効率)」
  • 「設備稼働率」
  • 「停止時間」
  • 「MTBF(平均故障間隔)」
  • 「MTTR(平均修復時間)」など

OEEは稼働率・性能・品質の3要素で構成され、設備が本来備える能力をどれだけ発揮しているかを示します。設備稼働率や停止時間のモニタリングにより、故障頻度や段取りロス、チョコ停などの改善ポイントを特定しやすくなります。

設備KPIを継続的に管理することで、ライン停止の予防、保全活動の最適化、設備寿命の延長など、生産性と安定稼働の両立が可能になります。

在庫に関するKPI

在庫に関するKPIは「売れる量・作る量・持つ量」のバランスを最適化し、キャッシュフローと利益に直接影響する重要な指標です。

代表的なものとして

  • 「適正在庫」
  • 「在庫回転率」
  • 「滞留在庫比率」
  • 「欠品率」
  • 「リードタイム在庫」などがあります。

適正在庫を把握することで、過剰在庫による保管コストやキャッシュ圧迫を防ぎ、逆に在庫不足による生産ストップも避けられます。また、在庫回転率を管理すると、在庫の動きが見える化され、生産計画や調達計画の改善に直結します。滞留在庫の分析はムダの削減に大きく寄与し、在庫圧縮・コスト削減に効果的です。在庫KPIは経営効率を高めるための必須指標といえます。

安全・環境KPI

安全・環境KPIは、従業員の安全確保と環境負荷低減を目的とした指標で、社会的責任やサステナビリティに直結します。

安全面

  • 「労災発生率」「ヒヤリハット件数」「安全パトロール実施率」などが利用され、労働災害の予防や安全文化の醸成に役立ちます。

環境面

  • 「CO₂排出量」「エネルギー使用量」「廃棄物排出量」「リサイクル率」などが重要です。

これらの指標を定期的にモニタリングすることで、環境負荷の最適化だけでなく、省エネ活動や法令遵守の徹底にもつながります。安全・環境KPIは、企業価値向上やESG経営の基盤を支える重要な視点であり、長期的な企業成長に欠かせません。

国際標準ISO22400が定める製造KPI

ISO22400は、製造業におけるKPIを体系的に整理した国際標準で、生産性・品質・設備・在庫・環境といった幅広い指標を網羅しています。製造現場のパフォーマンスを客観的に評価できるため、多拠点工場の比較や改善活動の基準づくりに活用されています。

以下では、ISO22400が定める代表的な製造KPIを分野別にわかりやすく解説します。

生産性指標

ISO22400が定める生産性指標には、工場の生産能力や処理スピードを測る「Throughput(スループット)」や「Cycle Time(サイクルタイム)」が含まれます。

スループットは一定期間内にどれだけの製品を生産できたかを示す指標で、生産能力やラインバランスを把握する際に不可欠です。サイクルタイムは1製品あたりの処理時間を示し、工程のムダやボトルネックを発見するための重要な指標です。

これらの指標を活用することで、生産能力を最大化し、適切な負荷計画やリードタイム短縮につながります。また、設備・作業者・材料など複数要因の調整にも有効で、工場全体の効率改善に大きく寄与します。

品質指標

品質指標は、製造工程における製品品質の安定性や不良発生率を数値化する指標です。

ISO22400では「Quality Rate」が品質評価の中心となっており、良品割合を表す基本的な指標として広く採用されています。この指標を活用することで、工程のばらつきや不良発生要因を特定し、改善すべきポイントを明確にできます。また、ロット品質の比較や統計的品質管理(SPC)との相性もよく、品質の標準化を進める上で非常に有効です。

品質指標の適切な管理は、クレーム削減、顧客満足度向上、ブランド価値の向上につながり、企業の競争力強化に直結します。

設備・保全指標

設備・保全指標は、設備がどれだけ稼働し、どれだけ効率的に維持されているかを評価するための指標です。

ISO22400で代表的なものには「Availability(稼働可能率)」や「Maintenance Ratio(保全比率)」があります。Availabilityは、設備が実際に稼働可能な時間を総時間で割った値で、設備の故障や停止によるロスを把握するのに有効です。一方、Maintenance Ratioは保全作業に必要なコストや時間の割合を示し、予防保全・予知保全の最適化を判断する材料になります。

これらの指標を活用することで、設備稼働率の向上、故障リスクの低減、保全コスト削減が実現し、生産性と安定稼働の両立につながります。

環境指標

環境指標は、製造活動が環境に与える影響を把握・管理するためのKPIです。

ISO22400では特に「Energy Consumption(エネルギー消費量)」が重要視されており、工場全体の使用電力や燃料の消費状況を定量的に評価できます。エネルギー消費量を管理することで、省エネ活動の成果測定や設備ごとの効率比較が可能になり、環境負荷低減とコスト削減の両立に役立ちます。

また、CO₂排出量や廃棄物量、リサイクル率などの指標と組み合わせることで、ESG経営やサステナビリティの推進にも大きく貢献します。環境指標を継続的にモニタリングすることは、企業価値向上や法令遵守にもつながる重要な取り組みです。

在庫指標

在庫指標は、製品・仕掛品・原材料の在庫状況を定量的に評価し、生産・調達・販売のバランスを最適化するための重要な指標です。

ISO22400では「Inventory Turnover(在庫回転率)」が基本指標として利用されています。在庫回転率は、在庫がどれだけ効率よく動いているかを示し、過剰在庫や滞留在庫の発生を防ぐうえで非常に有効です。また、在庫日数や欠品率といった指標と組み合わせることで、供給計画の精度向上やキャッシュフロー改善に直結します。

適切な在庫管理は、コスト最適化だけでなく、納期遵守や生産性向上にも影響するため、在庫指標は工場運営に欠かせないKPIのひとつです。

製造現場で活用される代表的なKPIの具体例

製造現場では、生産効率や品質、コストを最適化するために、改善の起点となるKPIが幅広く活用されています。直行率やOEE、不良率、生産リードタイムなどは、現場の課題を定量的に把握し、改善の優先順位を明確にする効果的な指標です。また、原価管理や在庫管理のKPIは経営へのインパクトも大きく、利益率向上にも直結します。

ここでは、代表的なKPIの具体例と、その活用ポイントを詳しく解説します。

直行率:初回で良品として流れる割合

直行率は、製品が最初の工程から最終工程まで一度も手直し(再加工)されずに流れる割合を示す指標です。製造現場の品質安定性を評価する上で非常に重要で、直行率が低い場合は、どこかの工程で不良や手戻りが多発している可能性があります。直行率を追うことで、工程ごとの不具合ポイントや作業ばらつきの特定が容易になり、現場改善に直結します。

また、直行率の向上はリードタイム短縮や原価低減にも効果的で、品質の安定化と生産性の向上を同時に実現できるメリットがあります。品質改善の最初の指標として取り組む企業も多い、非常に重要なKPIです。

OEE(総合設備効率):稼働率×性能×品質

OEE(総合設備効率)は、設備が本来の能力をどれだけ発揮できているかを示す総合指標です。「稼働率」「性能」「品質」の3要素で構成され、設備効率を一つの数値で表せるため、改善活動の起点として多くの製造現場で活用されています。稼働率は設備が動いている時間、性能は理論サイクルとのギャップ、品質は良品比率を表し、それぞれの要素を分解して原因を特定できます。

OEEを定期的に管理することで、チョコ停や段取りロス、性能低下、不良発生などの課題が見える化され、設備保全と生産性向上の両面で大きな成果を生みます。

不良率とロス分類:特性要因ごとの改善に活用

不良率は製造現場の品質課題を速やかに把握するための基本指標であり、工程の改善効果を測る際にも不可欠です。

不良率を管理する際は、「発生要因」「工程別」「製品別」「設備別」などの切り口でロス分類を行うことで、より精度の高い分析が可能になります。特性要因図(フィッシュボーン図)やQC手法と組み合わせることで、不良の根本原因にアプローチしやすく、再発防止にもつながります。

また、不良率の推移をモニタリングすることで、改善活動の成果を可視化でき、品質安定化・原価低減・顧客クレーム削減に大きく貢献します。品質改善の中心となる重要なKPIです。

生産リードタイム:全体のムダ見直し指標

生産リードタイムは、製品が原材料から完成品になるまでに要する全ての時間を示す指標で、工程改善や納期遵守において極めて重要です。

リードタイムが長い場合、多くの場合は「仕掛品滞留」「段取り時間」「待ち時間」「工程間のムダ」などが原因となっています。この指標を活用すると、工程全体のムダが可視化され、生産フローの改善ポイントが明確になります。リードタイム短縮は、生産性向上だけでなく、在庫削減、キャッシュフロー改善、納期遵守率向上にもつながるため、経営面でも大きなメリットがあります。

現場改善と経営改善をつなぐ代表的なKPIです。

原価KPI

原価KPIは、製造コストの構造を把握し、利益率を改善するための重要な指標です。材料費や労務費、製造間接費を詳細に分解することで、どの工程・作業・要因が原価に影響を与えているのかを明確にできます。

例えば、歩留まりの悪化、段取りロス、設備停止、過剰在庫などは、原価増加の主要因です。原価KPIを継続的に管理することで、コスト削減につながる改善策を立てやすくなり、生産性向上や利益率改善の取り組みがスムーズに進みます。

また、原価の変動をリアルタイムに把握できる体制をつくることで、経営判断の迅速化にも寄与します。製造業の収益性向上に欠かせないKPIです。

在庫KPI

在庫KPIは、生産・調達・販売のバランスを最適化し、企業のキャッシュフロー改善に直結する重要な指標です。在庫回転率を管理することで、在庫がどれだけ効率的に消化されているかを把握でき、滞留在庫や余剰在庫の削減につながります。

また、棚卸資産を適正化することで、保管コストの削減だけでなく、資金繰りの改善にも大きく貢献します。さらに、在庫日数や欠品率などと組み合わせてモニタリングすることで、生産計画と供給計画の精度が向上し、納期遵守にもプラスの効果をもたらします。在庫KPIは、工場運営と経営の両面で重要性の高い指標です。

KPI設定のポイント:SMARTの法則

製造業でKPIを効果的に運用するには、明確で実行可能な指標を設定することが重要です。その際に役立つのが、世界的に用いられる「SMARTの法則」です。Specific(具体性)、Measurable(測定可能性)、Achievable(達成可能性)、Related(経営目標との関連性)、Time-bound(期限の明確化)の5要素を満たすことで、現場の改善につながる実用的なKPIが設定できます。

以下では、それぞれのポイントを製造現場の事例とともに詳しく解説します。

Specific:具体的であるか

KPIは「誰が、どの工程で、何を改善するのか」が具体的であるほど成果につながります。曖昧な指標では現場が動きにくく、改善効果も測定できません。

例えば、「生産性を上げる」という抽象的な表現ではなく、「ラインAの段取り時間を10%削減する」「組立工程の直行率を95%に引き上げる」といった具体的な内容に落とし込むことが重要です。

具体性を持たせることで現場の行動が明確になり、改善活動の方向性が統一されます。また、改善計画や対策の立案もしやすくなり、現実的なアクションに結びつきやすくなります。

Measurable:計測できるか

KPIは数値で測定できなければ、改善の成果や進捗を正しく評価できません。

製造現場では「設備稼働率」「不良率」「OEE」「在庫回転率」など、多くの指標が数値化しやすいため、定量的に測れるかどうかを必ず確認することが重要です。

また、データ取得方法を事前に明確にしておくことで、計測のブレや記録漏れを防げます。計測可能なKPIを設定することで、現場が改善効果を実感しやすくなり、データにもとづいた意思決定が可能になります。定量管理は、製造現場における改善の基本となる考え方です。

Achievable:達成可能か

KPIは高すぎても低すぎても機能しません。達成不可能な目標は現場のモチベーション低下を招き、逆に簡単すぎる目標では改善効果が得られません。製造業では、過去の実績や工程能力、設備の状態、人員構成などを踏まえて適切な基準を設定することが重要です。

例えば、直行率を20%改善するのではなく、「現状90% → 93%へ改善」といった、段階的で現実的な目標が適しています。達成可能性を考慮したKPIは、現場に負担をかけずに改善活動を継続できる点で重要です。

Related:経営目標と関連しているか

KPIは単独で存在するのではなく、企業の経営目標やKGIと連動している必要があります。

製造現場では、「直行率向上 → 不良削減 → 原価低減 → 利益率向上」のように、経営への影響が明確な指標が求められます。もし現場のKPIが経営目標とズレていると、改善活動が部分最適に偏り、全体最適が実現しません。

また、KPIツリーなどを用いて、現場指標と経営指標をつなぐことで、組織全体で同じ方向に改善が進む仕組みが構築できます。経営と現場を結びつけるKPIこそ、最も効果的に機能します。

Time-bound:期限が明確か

改善活動には期限設定が欠かせません。期限のないKPIは、優先順位が下がり改善が後回しになりがちです。

製造業では「今月のOEEを85%に」「四半期内に段取り時間を10%削減」「半年で不良率を0.5ポイント改善」など、具体的な期間を設けることで、行動計画が明確になります。さらに、期限があることで定期的な振り返りが生まれ、PDCAサイクルが回りやすくなります。

期限を明確にしたKPIは、改善スピードと達成率を高め、組織全体のパフォーマンス向上に大きく貢献します。

KPI設定の注意点

製造業でKPIを設定する際は、正しい指標選びと適切な運用が不可欠です。KPIは改善のためのツールですが、設定方法を誤ると逆に現場の負担増や形骸化を招く恐れがあります。特に、数字に偏った評価やデータ精度の低さ、指標の量が多すぎるといった問題は改善活動そのものを阻害します。

ここでは、KPI設定で陥りやすい代表的な注意点と、それを避けるためのポイントをわかりやすく解説します。

数字だけに囚われて現場が疲弊するリスク

KPIは数値で管理することが基本ですが、数字ばかりを追いかける運用は現場の疲弊を招く危険性があります。

例えば、直行率や生産量の数値だけを厳しく追求し続けると、現場は「数字を達成すること」が目的化し、無理な作業や品質低下につながることがあります。さらに、達成圧力が強すぎると不具合隠しやデータ改ざんといった本質から逸れた行動を引き起こすケースも見られます。数字を重視すること自体は重要ですが、その背景にある状況を理解し、改善につながるアプローチで運用することが不可欠です。

KPIは“現場を動かす道具”であり、“現場を追い詰める道具”ではないことを理解して運用する必要があります。

改善に活用できないKPIは「指標のための指標」になる

KPIが改善につながらないと、ただ数字を記録するだけの“指標のための指標(KPIの形骸化)”になってしまいます。

例えば、現場でコントロールできない外部要因の多い指標や、改善アクションと関連性の薄い指標を設定した場合、現場は「追うべき意味を感じられない」状態になります。このようなKPIは改善活動を停滞させ、時間や労力だけが消費されてしまいます。

KPIを設定する際は、現場が改善可能であり、着手すれば成果が見える指標を選ぶことが重要です。KGIと連動しているか、改善行動につながるかを判断基準にすることで、KPIを実効性のある管理指標として活用できます。

データの精度が低いと逆効果になる

KPIは正確なデータに基づいてこそ、改善の指針として機能します。データの記録方法にばらつきがあったり、設備から取得する情報が不正確だったりすると、KPIの数値が実態と乖離し、誤った判断や対策につながる恐れがあります。

例えば、設備停止時間が正しく記録されていない場合、改善すべき故障やチョコ停が見逃され、OEE改善が進まなくなることもあります。また、手入力による管理は人為的ミスが生じやすく、分析の信頼性にも影響します。

データ精度を保つためには、計測ルールの統一やIoTによる自動収集の導入が効果的です。信頼性の高いデータがあってこそ、KPIは改善の武器になります。

KPIを増やしすぎると管理コストが膨らむ

KPIは多ければ多いほど良いわけではありません。指標を増やしすぎると、管理・記録・分析にかかる時間や工数が増え、現場負担が大きくなるだけでなく、管理側も指標の優先順位が判断しづらくなります。

その結果、重要な改善ポイントが埋もれ、KPIの本来の目的である「現場の行動を変えるための指標」として機能しなくなってしまいます。製造現場で扱うKPIは、一般的に3〜5個程度に絞るのが理想とされ、少数精鋭の指標で改善を回すほうが効果が高い傾向にあります。

KPIは「重要な項目だけに絞る」ことで価値を発揮し、現場と管理の両方にとって効率的な運用が可能になります。

h2 KPIを活用した改善の進め方

KPIは設定して終わりではなく、継続的な改善につなげてこそ効果を発揮します。製造業では、PDCAサイクルによる継続的な運用、現場への浸透、データに基づく見える化の3つが特に重要です。適切にKPIを活用することで、課題の早期発見、生産性や品質の向上、原価低減など多くの成果が期待できます。

以下では、KPIを改善活動に結びつけるための具体的な進め方を紹介します。

PDCAでの運用方法

KPIの効果を最大化するには、PDCAサイクルを前提とした運用が不可欠です。

  • 「Plan」では、現状分析にもとづいて改善目標を設定し、達成に必要な施策を計画します。
  • 「Do」では、設定したKPIに沿って改善活動を実行します。
  • 「Check」では、改善結果をKPIの数値で評価し、成果や問題点を明確にします。
  • 「Action」では、評価結果をもとに改善策を見直し、次の改善につなげます。

この循環を継続することで、改善が一時的な取り組みではなく、組織文化として定着します。KPIはこのPDCAを回すための“共通言語”として機能し、改善スピードと精度を高める役割を果たします。

現場への共有とモチベーション設計

KPIを効果的に運用するためには、現場への共有と納得感の醸成が重要です。現場が目的を理解できていない状態では、KPIは押し付けられた指標となり、改善活動が形骸化してしまいます。

まず、KPIの背景・狙い・改善の意味をわかりやすく共有し、現場が自分ごととして捉えられるようにする必要があります。また、達成状況を定期的に可視化し、改善結果を評価する仕組みを作ることで、モチベーション向上につながります。

例えば、KPI達成チームの表彰、達成度に応じた評価連動、改善提案制度との組み合わせなどが効果的です。現場が主体的に改善に関わる土壌づくりが、KPI運用の成功を大きく左右します。

ITツール・IoT・DXを活用したデータ取得と見える化

製造現場では、KPIを高い精度で管理するためにITツールやIoT、DXの活用が急速に広がっています。

設備の稼働データ、停止要因、品質情報、生産実績などをIoTセンサーや生産管理システムで自動収集することで、データの精度向上と記録作業の効率化が実現します。さらに、ダッシュボードやBIツールを用いてリアルタイムで“見える化”することで、異常の早期発見や迅速な意思決定が可能になります。

手作業での記録に比べ、データの正確性や分析スピードが大幅に向上し、改善の質とスピードを高めることができます。DXを活用したKPI管理は、生産性向上と競争力強化の鍵となる取り組みです。

製造業のKPI設定ステップ

製造業でKPIを効果的に運用するには、正しい手順で設定し、継続的に管理するプロセスが欠かせません。現場が動ける実践的なKPIにするためには、課題の整理からKGIの設定、KPIの絞り込み、データ取得方法の決定、定例的なレビューという5つのステップが重要です。この流れを押さえることで、成果につながるKPI設定と改善体制が整い、現場の生産性向上や品質改善にも直結します。

ここでは、製造業のKPI設定のステップを解説します。

①現状の課題を整理する

KPIを設定する第一歩は、現状の課題を正確に把握することです。課題が曖昧なままでは、的外れなKPIを設定してしまい、改善効果が得られません。

まずは、生産性・品質・設備・在庫・原価などの主要領域ごとに現場の課題を洗い出します。工程別のボトルネック、設備停止の頻度、不良の要因、在庫の過不足など、データをもとに課題を可視化することが重要です。この段階で“改善すべき優先順位”が明確になり、以降のKPI設定がスムーズに進みます。

課題整理はKPI設定の基盤であり、改善活動の方向性を決める最も重要なステップです。

②KGI(最終目標)を設定する

現場の課題を整理したあとは、企業が最終的に達成したい成果であるKGI(Key Goal Indicator)を設定します。KGIは「利益率向上」「リードタイム短縮」「不良削減」「納期遵守率向上」など、経営レベルの目標が中心です。このKGIが曖昧だと、現場KPIとのつながりが弱くなり、部分最適に陥る危険があります。

例えば「利益率3%向上」というKGIがある場合、その実現には原価低減や直行率改善などが紐づくため、KPI選定の指針になります。KGIを明確に設定することで、KPIが“現場改善のため”だけでなく“経営成果につながる指標”として機能し、組織全体が同じ方向に動く基盤が整います。

③KPIを3〜5個に絞る

KPIは多ければ多いほど良いわけではなく、効果的に運用するためには3〜5個程度に絞ることが重要です。指標を増やしすぎると管理コストが増え、現場は何を優先すべきか判断できなくなります。KGIとのつながりが強い指標、現場改善につながる指標、データ取得が現実的な指標を基準に選定するとよいでしょう。

例えば、OEE・直行率・リードタイム・不良率など、現場改善に直結する指標から優先して選びます。少数精鋭のKPIに絞ることで、改善活動がブレず、現場に無理のない運用体制が構築できます。

④データ計測方法を決める

KPIを設定したら、次はデータの取得方法と管理ルールを明確にします。記録方法が曖昧なままだと、データ精度が低下し、正しい改善判断ができません。手入力で記録する場合は、計測基準や記録タイミングを統一する必要があります。

また、IoTセンサーや生産管理システムを導入すれば、設備稼働データ・停止時間・品質データなどを自動で取得でき、精度の高いKPI管理が可能です。データ計測の仕組みを整えることで、KPIが改善の“根拠”となり、信頼性の高い判断ができるようになります。

⑤定例会で進捗確認し改善を回す

KPIは設定して終わりではなく、定期的に進捗を確認する仕組みを作ることが欠かせません。週次・月次の定例会などで、KPIの達成度や課題、改善施策の結果をレビューし、次のアクションに反映します。この習慣があることで、改善の方向性が統一され、PDCAサイクルが確実に回り始めます。

また、成功事例や改善効果を共有することで現場のモチベーション向上にもつながります。継続的な振り返りがあるKPI運用は、改善文化の定着を促し、組織全体の生産性向上に大きく貢献します。

まとめ

製造業におけるKPIは、生産性・品質・設備・在庫・コストといった現場の状態を可視化し、改善活動を効率的に進めるための重要な指標です。特に、国際標準ISO22400に基づく体系的なKPIや、直行率・OEE・不良率・リードタイムなどの代表指標は、現場の課題抽出と改善の優先順位づけに大きく役立ちます。

また、KPIは設定方法を誤ると形骸化しやすいため、SMARTの法則に沿った明確な目標設定と、絞り込んだ指標選定が重要です。さらに、PDCAサイクルの徹底、現場への共有、ITやIoTを活用したデータの見える化が、KPIの価値を最大限に引き出す鍵となります。

KPIを正しく運用すれば、生産性向上や原価削減、品質安定化など、製造業の競争力を大きく高めることができます。

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