人事評価制度の廃止が進む理由とは?公務員の評価制度から見る課題と今後

目次

人事評価制度とは?制度の目的と仕組みを解説

人事評価制度とは、従業員一人ひとりの能力や成果、業務への取り組み方を定期的に評価し、処遇や昇給、人材育成などに反映する制度です。多くの企業や公務員組織で導入されており、組織全体の目標達成や生産性向上を支える重要な仕組みとされています。評価制度の運用方法は企業ごとに異なりますが、共通して求められるのは「公平性」「透明性」「納得感」です。制度を機能させるためには、明確な評価基準とフィードバック体制が欠かせません。

本章では、人事評価制度の基本的な構造と目的、評価項目や人事考課との違い、公務員と企業の運用の違いについて解説します。

人事評価制度の基本構造と目的

人事評価制度は、企業や公務員などあらゆる組織で活用されている人材管理の中心的な仕組みです。制度の基本構造は、「評価対象の設定」「評価基準の策定」「評価の実施」「結果の反映」という4つの段階で構成されています。評価者は上司や管理職が中心となり、従業員の業務成果や行動特性を数値化・定性化して評価します。こうしたプロセスを通じて、評価結果を給与・昇給・昇進・配置転換などに反映させ、組織の成長と人材育成の両立を図ります。

制度の主な目的は、従業員の努力や成果を正当に評価することで、モチベーションを高め、組織全体のパフォーマンスを向上させることにあります。評価を通じて個人の課題を把握し、キャリア形成や教育計画に活かすことも可能です。つまり人事評価とは、単なる査定制度ではなく、人と組織を成長させるマネジメントツールとしての役割を持っています。適切に運用されれば、上司と部下のコミュニケーションが活発になり、業務改善にもつながります。

評価項目・評価基準・人事考課との違い

人事評価制度の中核をなすのが「評価項目」と「評価基準」です。評価項目とは、従業員のどの行動や成果を測定するのかを明確にした項目であり、一般的には「成果」「能力」「態度」の3軸が基本とされています。

評価基準は、これらの項目をどの水準で判断するかを示す具体的な指標のことです。たとえば、成果であれば「目標達成度」や「売上貢献度」、能力であれば「課題解決力」や「リーダーシップ」、態度であれば「協調性」や「責任感」などが挙げられます。

一方、「人事考課」とは、人事評価制度の一部を構成するプロセスであり、評価結果を実際に処遇へ反映させるための判断を行う段階を指します。つまり、評価が“情報の収集・分析”であるのに対し、人事考課は“決定と反映”のフェーズです。評価制度を効果的に運用するためには、項目や基準を明確に設定し、従業員に納得感を持たせることが重要です。評価者教育の充実や、フィードバック面談の実施も不可欠であり、これにより制度全体の信頼性と一貫性が高まります。

公務員と企業における制度運用の違い

公務員の人事評価制度は、民間企業の仕組みと共通点も多い一方で、目的や評価の反映範囲に明確な違いがあります。企業の場合、評価結果は昇進・昇給・賞与といった処遇に直接影響しますが、公務員では法律や人事院規則などの制度的枠組みの中で運用され、評価が給与や昇任に与える影響は限定的です。そのため、公務員の評価制度は主に「能力開発」「職務遂行の改善」「組織マネジメントの最適化」を目的としており、短期的な業績よりも職務態度や責任遂行能力が重視されます。

また、企業に比べて評価の実施頻度が少なく、評価者も上司や部門長など限られた範囲にとどまる傾向があります。最近では、自治体や官公庁でも民間の制度を参考にし、ノーレイティング方式や多面評価の導入を検討する動きが見られます。これにより、公務員組織でも成果主義と公平性のバランスを取りながら、人材育成を重視した評価運用が進められています。評価制度の運用を通じて、より自律的で透明性の高い行政マネジメントを実現することが期待されています。

従来の人事評価制度が抱える課題とは

人事評価制度は、従業員の能力や成果を公平に測定し、処遇や人材育成につなげる目的で導入されてきました。しかし、多くの企業や公務員組織で運用されてきた従来の制度には、時代の変化に合わなくなった部分が目立ちます。評価基準の不明確さや上司の主観、過度な成果主義などが要因となり、従業員のモチベーションを下げ、組織全体の生産性にも悪影響を及ぼしています。

ここでは、従来の人事評価制度が抱える代表的な課題を4つの観点から整理し、今後の改善に向けた課題を明らかにします。

成果主義・ランク付けによるモチベーション低下

成果主義やランク付け制度は、一定の成果を上げた社員を正当に評価する目的で導入されました。しかし、実際には従業員同士の競争を激化させ、チームワークを損なう結果を生んでいるケースが多く見られます。成果だけで評価される仕組みでは、プロセスや努力が軽視される傾向にあり、長期的な人材育成の観点からはマイナスに働くこともあります。

特に目標設定が曖昧なまま数値目標ばかりが重視されると、評価されるために短期的な成果を追う社員が増え、組織の戦略や理念と一致しない行動が目立つようになります。これにより、社員の納得感が低下し、モチベーションの持続が難しくなります。公務員組織においても、数値化が難しい業務を評価対象にすること自体が不適切なケースがあり、評価方法の見直しが求められています。

上司の主観に左右される不公平な評価

人事評価制度の中でも、最も多くの従業員が不満を抱くのが「上司の主観」による評価の偏りです。評価者が自分の価値観や感情で判断してしまうと、客観的な基準が失われ、評価結果に納得できない社員が増えます。上司との相性や印象が評価に影響する「評価バイアス」は、組織の信頼性を損なう大きな要因です。

また、評価者が十分なマネジメント教育を受けていない場合、フィードバックの質にも差が出ます。評価を伝える面談の中で具体的な改善策が示されず、単なる“点数付け”になってしまうと、従業員は「努力しても報われない」と感じやすくなります。こうした不公平感は、モチベーションの低下や離職率の上昇にもつながります。評価者教育を充実させ、複数の評価者による多面的な仕組みを導入することが、今後の課題といえます。

評価結果が人材育成や給与に反映されない問題

人事評価制度の本来の目的は、従業員の成長を支援し、努力が処遇に正しく反映される仕組みをつくることにあります。しかし現実には、評価結果が給与や昇進に結びつかない企業も多く、制度が形骸化しているのが実情です。特に公務員組織では、評価が行われても昇給や配置転換に直接影響しない場合が多く、評価を「やっても意味がない」と感じる職員も少なくありません。

このような制度運用では、評価が人材育成やキャリア形成の機会として機能せず、組織全体の成長を妨げてしまいます。また、評価後のフィードバックが十分に行われないことで、従業員が自分の課題を理解できず、次の行動につなげられないという問題もあります。評価を活用した育成・教育の仕組みを明確に設計することが、今後の評価制度改革における重要なテーマです。

管理コストと業務負担の増加

もう一つの大きな課題は、評価業務にかかる膨大な時間とコストです。評価者は日常業務に加えて面談やシートの記入、データ管理など多くの作業を行う必要があり、管理職の負担は年々増えています。特に従業員数の多い企業や自治体では、評価の実施頻度が高く、システムへの入力や集計にも相当な労力がかかります。

また、従来の紙ベースやExcelによる管理では、情報の一元化が難しく、評価データが分散することで人材活用に生かせないケースも見られます。制度を維持するための工数が増える一方で、成果としての組織改善が得られないのは本末転倒です。そのため近年では、評価の効率化を目的にクラウド型の人事システムを導入する企業が増加しています。デジタル化により、評価作業の負担軽減とデータの透明性向上が期待されています。

なぜ今、人事評価制度の廃止が進むのか

ここ数年、多くの企業や公務員組織で人事評価制度の廃止・見直しが進んでいます。従来の制度では成果主義やランク付けが重視されすぎた結果、従業員のモチベーション低下や不公平感の拡大を招くことが増えました。時代の変化により働き方が多様化し、テレワークやプロジェクト型業務が主流となる中、従来の評価方法では実態に合わなくなっています。評価をめぐる不満の声が広がるなかで、「制度そのものを一度見直すべきではないか」という考えが強まっています。

ここでは、人事評価制度が廃止へと向かう背景を4つの視点から解説します。

時代の変化と働き方の多様化による制度の限界

現代の働き方は、かつての画一的な勤務形態から大きく変化しています。リモートワーク、副業、ジョブ型雇用など多様な働き方が広がる中で、従来の人事評価制度では個々の成果や貢献度を正確に測定することが難しくなっています。特に、日本の企業や公務員組織では、勤続年数や出勤態度など形式的な項目に依存する評価基準が多く、実際の成果や創造性を反映しにくい点が課題とされています。

さらに、時代の流れとともに組織が求めるスキルや人材像も変化しています。以前は上司の指示に忠実であることが評価されましたが、現在では自ら課題を見つけて解決する能力や、チーム全体を巻き込むリーダーシップが重視されています。こうした環境の変化に制度が対応しきれないことが、評価制度の見直しや廃止が進む大きな理由となっています。

従業員の納得感を失わせる評価基準の曖昧さ

人事評価制度が廃止に向かうもう一つの要因は、評価基準の曖昧さによる従業員の不満です。どのような行動や成果が高く評価されるのかが不明確なままでは、従業員は努力の方向性を見失い、モチベーションを維持できません。特に上司による主観的な評価が大きく影響する職場では、同じ業務成果でも評価が異なることがあり、不公平感が生まれやすくなります。

また、評価の結果が給与や昇進などの処遇にどのように反映されるかが不透明な場合、制度そのものへの信頼性が失われます。従業員が評価プロセスに納得できないままでは、フィードバックの効果も薄れ、組織全体の士気低下を招きます。制度の見直しを進める企業や公務員組織では、「明確な基準設定」と「定期的な評価者教育」を重要課題として掲げるケースが増えています。

企業・公務員組織で広がる見直しの動き

近年では、国内外の多くの企業が「ノーレイティング制度」など新しい評価手法を導入しています。GE(ゼネラル・エレクトリック)やアドビのようなグローバル企業は、従来のランク付けや年次評価を廃止し、リアルタイムのフィードバックや目標管理に重きを置いた制度に転換しました。この手法は、上司と従業員が継続的に対話を行うことで、成長を促進する仕組みとして注目されています。

一方、公務員組織においても評価制度の柔軟化が進んでいます。自治体や官公庁では、形式的な考課シートに依存する運用から、面談や目標共有を重視したマネジメント型評価への移行が始まっています。これは、単に制度を廃止するのではなく、より現代的な組織運営と人材育成を両立させるための見直しと言えます。評価を「査定」から「成長支援」へと再定義する動きが広がっているのです。

人事制度を見直すべきタイミングと判断ポイント

人事評価制度を見直すべきタイミングは、従業員からの不満や離職が増え始めたとき、または組織の目標と評価の方向性がずれ始めたときです。たとえば、成果を重視する企業であっても、実際には評価が勤続年数や人間関係によって左右されている場合、制度の再設計が必要です。人事制度を改革する際には、「何を評価したいのか」「どのように活用するのか」を明確に定義することが重要です。

判断のポイントとしては、

  1. 組織の現状に合った基準設定ができているか
  2. 評価結果を適切に処遇へ反映できているか
  3. フィードバックが人材育成につながっているか、の3点が挙げられます。

これらが機能していない場合、制度の維持はかえってコストと不信感を生みます。公務員も企業も、「評価のための評価」から脱却し、組織の成長を支える仕組みへと移行していくことが求められています。

ノーレイティング制度とは?新しい評価方法の導入が注目される理由

従来の人事評価制度が限界を迎えるなかで、注目を集めているのが「ノーレイティング制度(No Rating)」です。これは、従業員をランク付けする評価方式を廃止し、リアルタイムのフィードバックを通じて成長を促す新しい評価手法です。数値評価や点数付けをなくすことで、評価に対する不公平感を減らし、従業員のモチベーション向上と組織の生産性向上を同時に実現しようとする考え方です。GE(ゼネラル・エレクトリック)やアドビなどの海外企業をはじめ、日本でも導入を検討する企業や公務員組織が増えています。

ここでは、ノーレイティングの意味や導入背景、メリット・デメリット、そして成功のための運用ポイントを解説します。

ノーレイティングの意味と導入背景

ノーレイティング制度とは、従業員を「A〜D評価」や「1〜5段階」などでランク付けせず、定性的なフィードバックを中心に人材を評価する方法です。従来の人事評価制度では、評価結果が点数や序列に変換されるため、上司の主観や比較意識が強くなり、不公平感や不満を生みやすい傾向にありました。これに対し、ノーレイティングは「個人の成長支援」を目的とし、上司と部下が対話を重ねながら次の行動につなげるマネジメント手法です。

この制度が注目される背景には、働き方の多様化や価値観の変化があります。現代の組織では、チーム単位での成果やコラボレーションが重視され、個人単位のランク付けでは貢献を正しく評価できません。また、年功序列や形式的な考課に縛られていた企業や公務員組織でも、柔軟な評価を求める声が高まり、ノーレイティング導入の動きが加速しています。

従業員へのフィードバックを重視したマネジメント

ノーレイティング制度の中心となるのが「フィードバックマネジメント」です。評価のたびに数値をつけるのではなく、上司が定期的に従業員と面談し、目標達成度や行動の改善点、成果の背景を対話形式で確認します。このように継続的なフィードバックを行うことで、従業員は自分の成長を実感しやすくなり、日々の業務に対するモチベーションも高まります。

また、従来の年1回・2回の評価では遅れがちだった改善点の共有も、ノーレイティングではリアルタイムで行えるのが特徴です。特に若手社員や新入職員の育成においては、即時性のあるフィードバックが学習効果を高め、早期成長につながります。公務員組織でも、上司と部下の信頼関係を構築するマネジメント手法として注目されており、単なる評価制度ではなく「コミュニケーションを基盤とした人材育成の仕組み」として定着しつつあります。

ノーレイティングのメリットとデメリット

ノーレイティング制度の最大のメリットは、従業員の納得感を高め、モチベーションの向上を促す点にあります。序列を廃止することで評価への不安や不満が減り、安心して挑戦できる職場環境が生まれます。また、上司と部下の対話を重視するため、目標達成に向けたサポートや人材育成がしやすくなることも大きな利点です。さらに、組織としても「数値管理中心」から「成長支援中心」への転換が可能となり、チーム全体のパフォーマンス向上につながります。

一方で、デメリットとしては、評価の客観性を保つのが難しいという課題があります。数値的な基準がないため、評価者の力量によって結果がばらつく可能性があり、制度の信頼性が低下するリスクもあります。また、評価者と被評価者の間で十分なコミュニケーションが取れない場合、制度の形骸化を招く恐れもあります。ノーレイティングの成功には、評価者のマネジメントスキル向上と、組織全体での価値観の共有が欠かせません。

導入を成功させるための運用ポイント

ノーレイティング制度を導入する際に最も重要なのは、「目的の明確化」と「段階的な導入」です。単にランク付けを廃止するだけでは、制度がうまく機能しません。まず、組織として“なぜノーレイティングを採用するのか”を定義し、その目的を全従業員に共有することが大切です。その上で、評価基準を完全に撤廃するのではなく、行動指針や成果目標などの「方向性」を明確に提示することが求められます。

また、導入初期は評価者への教育が欠かせません。上司が適切にフィードバックを行うためのトレーニングや、面談の進め方、質問の仕方などを体系的に学ぶことが必要です。さらに、運用の中で得られたデータを分析し、制度を柔軟に改善する姿勢も求められます。ノーレイティングは「導入して終わり」ではなく、組織全体で成長を続けるためのマネジメントサイクルとして継続的に運用していくことが成功の鍵です。

人事評価を廃止した企業・公務員組織の事例

人事評価制度を廃止する動きは、一部の海外企業だけでなく、日本国内でも着実に広がりを見せています。近年では「ノーレイティング制度」を導入する企業や自治体が増え、従業員のモチベーション向上や生産性の改善といった成果が報告されています。評価の廃止は決して“評価をしない”という意味ではなく、より柔軟で公平なマネジメントを行うための仕組み改革といえます。ここでは、アメリカの成功事例から日本の公務員組織の取り組みまでを具体的に紹介し、評価制度廃止後の効果と今後の課題を考察します。

アメリカ企業(GE・アドビ)に見るノーレイティング導入の成功例

アメリカでは、従来の人事評価制度を見直す動きが早くから進んでいました。代表的な例が、GE(ゼネラル・エレクトリック)とアドビの取り組みです。GEは長年続けてきたランク付け制度を2015年に廃止し、「コンティニュアス・フィードバック(継続的な対話)」を軸としたマネジメント手法へ移行しました。これにより、上司と部下が日常的に目標や課題を共有し、改善点をリアルタイムで確認できるようになりました。

アドビも同様に、年1回の評価面談を廃止し、定期的なフィードバックを重視する「チェックイン制度」を導入しました。その結果、離職率が約30%減少し、従業員満足度が大幅に向上したと報告されています。これらの企業は、「評価」を人材を序列化するための制度ではなく、個々の成長を促すマネジメントツールとして再定義した点が成功の要因といえます。

日本の自治体・公務員組織での取り組みと課題

日本でも、一部の自治体や公務員組織で人事評価制度の見直しや廃止に向けた動きが見られます。特に自治体では、画一的な考課方式から脱却し、職員の能力開発やチーム運営を重視した制度改革が進んでいます。たとえば、面談による目標共有や、フィードバックを軸とした運用を取り入れた地方自治体では、職員の納得感が高まり、業務改善の提案件数も増加しています。

しかし、課題も少なくありません。公務員組織では評価が昇給や昇進に直結しにくいため、制度を廃止しても動機づけが弱くなるおそれがあります。また、評価者の育成が追いつかない場合、制度運用の質にばらつきが生じることもあります。こうした課題を解決するには、評価の目的を「査定」から「人材育成」へと明確に転換し、管理職のマネジメントスキルを高めることが不可欠です。

評価制度廃止後の職場環境と成果への影響

人事評価制度を廃止した企業や自治体では、職場環境に大きな変化が見られます。従業員間の不公平感が減少し、上司と部下の関係がよりオープンになったという報告が多くあります。特に、定期的なフィードバックや対話を通じて、従業員一人ひとりが自分の業務課題を理解し、主体的に改善へ取り組む姿勢が生まれています。

成果の面でも、個々のパフォーマンスよりチーム全体の成果を重視する文化が根づきつつあります。数値目標の達成だけでなく、協働・創造性・問題解決力といった「質的な貢献」も評価されるようになりました。一方で、定量的な指標が減ることによって評価の透明性を保つのが難しくなるため、制度設計の段階で明確な評価プロセスを定義しておくことが重要です。

評価制度を廃止しても成長を促す仕組みとは

評価制度を廃止しても、組織としての成長を止めないためには、明確な目標設定と定期的なフィードバックの仕組みを維持することが大切です。ノーレイティング制度では「数値的な評価」はなくても、成長の方向性を共有するマネジメントが存在します。上司と部下が月次または四半期ごとに進捗を確認し、課題を共有する文化を根づかせることで、従業員の自己成長意識を高めることができます。

また、データ分析やAIツールを活用して、従業員のスキルや成果を客観的に可視化する取り組みも進んでいます。これにより、評価制度を廃止しても人材配置や研修計画に活かせる仕組みを保つことが可能です。重要なのは、「制度をなくすこと」ではなく、「成長を促す新しい管理・運用の形を構築すること」です。これが、今後の組織マネジメントの大きな潮流といえるでしょう。

人事評価制度を見直す際のポイントと注意点

人事評価制度の見直しは、単に新しい制度を導入することではなく、組織全体のマネジメントの在り方を再設計する重要なプロセスです。評価制度の目的は「査定」ではなく、「成長支援」にあります。そのためには、従業員と上司の信頼関係を基盤に、明確な目標設定と継続的なフィードバックが機能する環境づくりが欠かせません。特に公務員や企業など大規模組織では、段階的な導入と管理職の意識改革が成功の鍵となります。

ここでは、制度改革を円滑に進めるための4つの視点から解説します。

従業員と上司のコミュニケーション強化の重要性

人事評価制度を見直す際、最も重視すべきは従業員と上司のコミュニケーションです。従来の評価制度では、年に1〜2回の面談で結果を伝えるだけの形式的な対話が中心でした。しかし、現在の組織ではリアルタイムのフィードバックや、日常的な会話による目標確認が求められています。定期的に意見交換を行うことで、上司は従業員の課題を早期に把握し、的確なサポートが可能になります。

また、従業員側にとっても、努力が正しく理解されていると感じられれば、モチベーションの維持につながります。公務員組織においても、業務改善提案やチーム活動の共有を通じて、評価者と被評価者の信頼関係を深める取り組みが増えています。評価制度の質を高める第一歩は、「話し合いの場をつくること」にあるといえるでしょう。

明確な目標設定と定期フィードバックの仕組みづくり

制度改革において欠かせないのが、明確な目標設定と定期的なフィードバックの仕組みです。評価基準が曖昧なままでは、従業員が何を重視すべきか分からず、努力の方向性を誤るリスクがあります。上司がチームや個人の業務内容を正しく理解し、目標を具体的かつ達成可能な形で提示することが重要です。たとえば「成果の数値」だけでなく、「プロセス」「協働姿勢」「改善提案」など、複数の観点から評価することが効果的です。

さらに、評価期間を長く設定するよりも、月次や四半期ごとに短いサイクルでフィードバックを行うことで、改善スピードを高められます。アドビやGEが採用している「チェックイン制度」「コンティニュアス・フィードバック」のように、対話を通じた柔軟な管理手法を導入する企業や公務員組織も増加しています。

マネジメント層が持つべき視点と責任

人事評価制度の改革を成功させるためには、マネジメント層の意識改革が不可欠です。管理職は単に評価を行う立場ではなく、部下の成長を支援するリーダーとしての責任を持つ必要があります。特に、評価の公平性と一貫性を保つためには、評価者自身が自社の目標や理念を深く理解していることが重要です。

また、マネジメント層が評価結果をどのように活用するかによって、制度全体の機能性が変わります。評価を通じて、配置転換・研修・昇進といった人材活用施策に反映できれば、組織の成長サイクルが生まれます。公務員組織でも、管理職研修を通じて「評価者教育」を行う自治体が増えています。評価制度の改革は、トップダウンではなく、現場のマネジメント層が「運用の質」を高めることから始まります。

制度改革を円滑に進めるための段階的導入方法

評価制度を見直す際に注意すべき点は、いきなり全社的に制度を変更しないことです。制度改革は段階的に進めることで、現場への混乱を最小限に抑えられます。まずは一部部署で試験運用を行い、フィードバックや課題を分析してから全社展開へ移行するのが理想的です。この「小規模導入→検証→改善→全体導入」のプロセスを経ることで、運用上のリスクを軽減できます。

また、導入の初期段階では、従業員に制度の目的やメリットを丁寧に説明することが重要です。制度の意図が理解されていないままでは、現場での反発や誤解を招く可能性があります。段階的な導入は、評価制度を“押し付ける”のではなく、“共に作り上げる”という姿勢を示すことでもあります。企業や公務員組織が制度改革を成功させるには、全員が目的を共有しながら前向きに取り組む文化づくりが欠かせません。

まとめ|人事評価制度の廃止はゴールではなく、組織改革のスタート

人事評価制度の廃止は、単に評価をやめることを意味しません。むしろ、それは「新しい人材マネジメントへの第一歩」です。企業や公務員組織が制度を見直す背景には、時代の変化と働き方の多様化があります。従来の評価基準では、個々の成果やチーム貢献を正確に測れなくなっている今、制度の改革は避けて通れません。

重要なのは、従業員一人ひとりの成長を支援しながら、組織全体としての成果を高めるための仕組みを再構築することです。評価を“数値化”ではなく“対話と改善”のプロセスとして捉え直すことが、これからの人事評価制度の本質といえるでしょう。

従業員の成長と組織の成果を両立する制度設計へ

これからの人事評価制度に求められるのは、従業員のモチベーションを引き出し、組織の成果と両立させる制度設計です。制度の廃止や見直しは「終わり」ではなく、「成長支援型マネジメント」への転換点です。例えば、定期的なフィードバックや面談を通じて目標達成をサポートする仕組みを取り入れれば、従業員の自己成長を促進できます。評価の透明性と納得感を高めるためには、上司が持つマネジメントスキルの向上も欠かせません。

さらに、データ活用による成果分析やスキルマップの導入など、評価結果を可視化する仕組みを構築すれば、組織全体の課題も明確になります。制度改革の目的は「削減」ではなく「最適化」です。従業員と上司が共に成長できる制度こそが、企業や公務員組織の持続的な発展を支える基盤となります。

制度の廃止がもたらす本当の意味と今後の展望

人事評価制度を廃止することの本当の意味は、「評価の目的を変えること」にあります。かつてのように結果や数値のみを追う制度ではなく、過程を重視し、人材の可能性を引き出す運用が求められています。特に、公務員や大企業では形式的な評価から脱却し、柔軟で個別性のあるフィードバックを行う取り組みが増えています。これは、組織が“人を管理する”から“人と共に成長する”段階へと進化している証です。

今後は、AIやデジタルツールの活用により、客観的なデータをもとにした評価やマネジメントが一般化していくでしょう。その中で最も重要なのは、「制度そのもの」ではなく「制度をどう活かすか」です。人事評価制度の廃止とは、古い仕組みを終わらせることではなく、人と組織の未来を見据えた再設計のスタートなのです。変化に適応しながら、より人間的で生産的な職場づくりを進めることが、これからの組織に求められています。

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